「ゲンスルーは何故、ニッケスの名前を忘れたのか?」 について


 前回(「ヒソカは何故、レイザーの球を右手で受けたのか?」)と同じくらい、どうでもいいことなんだけど、一応気になっているので書いておくことにする。

 何の話かというと、同じくG・I編の、この場面。

(15巻 75P)

 ――ゲンスルーが「爆弾魔」であることを告白して、かつての仲間たちの命と引き換えに、カードを要求する。混乱と騒動の後、結局、取り引きに応じにきたリーダーのニッケスに対して言う、ゲンスルーのセリフが、これ。
 この場面、いかにもゲンスルーの冷酷非道さが現れていて、それだけのコマに見えるけど、実際はそうじゃない。
 実のところ、この場面は必要なことだったのである。

 何故かというと、アベンガネのことがあるから。

(18巻 132P)

 アベンガネ=除念師。
 クロロにかけられた、クラピカの念を外すために必要な人物。
 G・I編では、プレイヤーが島に滞在中かどうかがわかるようになっている。

(16巻 98・99P)

(この場面でも、アベンガネが生存していることがわかるようになっている。ゴンたちはたぶん、アベンガネの名前を知らないのだろう。そのことに、特に問題はない)
 というわけで、仮にゲンスルーが仲間の名前を覚えていると、まずいことになってしまう。

 普通に読んでいると、そのこと自体は特に気になることじゃない。アベンガネ自身が――「爆弾魔」はオレ達を始末する…!! したと思い込むはず……!!――と予防線をはってもいる。

(15巻 126P)

 とはいえ、ゲンスルーというキャラクターを考えるうえでは、かなり重要な設定になっているのは事実だろう。
 自分のことを「狂ってる」と冷静に言えるだけの、やばいやつ。その肉づけにとっては。
 ゴンとの戦闘シーンでの、このやりとり。

(18巻 9P)

 当然、ゲンスルーは自分の能力を知るような人物を生かしてはおかない。
 だからこそ、能力発動に、「自分の能力を説明すること」という条件をつけている(もっとも、「命の音」は一時間程度の猶予があることになっているのだから、そのあいだに何とでもできそうではあるけれど。書き残すとか……)。
 なので当然、仮にアベンガネが生きていることに気づけば、すぐに始末しにいくはずである。
 しかしそうなっていないのは、アベンガネの名前を――本当に――もう忘れてしまっているから……。
 五年前からの仲間である「ニッケス」の名前を忘れているんだから、それくらいは当然だろう(一応、ゲンスルーのキャラクター設定上、アベンガネの名前を最初から覚えていなかった、というのはないだろう)。

 正直、このことは別に気になるような伏線じゃない。なくても、とりたてておかしいとは思わないだろう。話の流れに抵触するほどでもない。
 けれどともかくも、そのさりげなさ≠ヘ、作者の芸の細かさを実感するには十分な、何気ない一コマなのは間違いない。
 このたった一コマには、けっこうな意味が込められているのである。
 さらに、もうちょっと憶測をすれば、だから18巻のゴンとのやりとりは、むしろ15巻の場面を強調するために作った、と言えるかもしれない。
 ――あるいは、ここでのやりとりを想定したために、15巻の場面が必要になった、のかもしれない。


 前にも書いたとおり、G・I編はかなり細かいところまで気を配ってかかれている。それでいて、全体の流れはテンポよく、淀みもなく進んでいく。
 それでもまあ、アラはあるだろう。「同行」の呪文の範囲が半径20メートルとか、絶対知らんやつ巻き込んでるだろうな、とか思う(ただし、ここでも芸が細かくて、17巻のツェズゲラとゲンスルーの対決シーンでは、きっちり後ろに跳んでいたりする。しかし、「徴収」の呪文は味方には効かないんだろうか、とか思ったりもする。あるいはパーティーには効かないみたいな、裏設定があるのか……)。
 どうでもいい誤植みたいなのとかも、いくつかはある(「ジスパ」の名前は、最初だけが「ジスパー」で、あと二回出てくるところでは「ジスパ」となっている。あと、17巻の124Pで「一握りの火薬」対策で「皮膚で感じた瞬間に絶!!!」になってるけど、ここ凝≠フ間違いだよな、と毎回思ったりする)。

 ただ、今でもわりと気になっているのは、ビスケのこのセリフ。

(15巻 27P)

 これ、ゴンの出生にかかわる何かなのかな、とも思うが、よくはわからない。G・I自体がゴンのために用意されていた、というなら、けっこうな伏線ではあるんだけど。
 あとは、「キルアにはまだ不可能な」「超高速のオーラの攻防力移動術…!!」とか。ゲンスルーも警戒する、ツェズゲラの謎の能力とか。
 もっとも、そんな何やかやも、連載が実質的に終了している以上、どうしようもないとは思う。

 ……というか、正直なところ選挙編以降は好きじゃないので、読まないようにしてる。読むと、それまでの面白かったところまで、うまく読めなくなってしまうから。

 あと、もう一つどうでもいいけど、ゲンスルーが自分の正体をばらすこのシーン。

(15巻 50P)

 ここは、何度読んでも感心する。「ある種、冗談のようなあの場の空気」が見事に表現されているから。

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