[夢見る猿]

 一匹の猿がいて、夜空をずっと見上げていました。
「月には兎がいるそうな」
 というので、猿は是非とも本当かどうか試したくなりました。
 そこでまず、長い梯子をかけようとしましたが、梯子は「無理だ」といわんばかりに倒れてしまいました。
 次に、猿は高い木に登って、そこから枝を揺らして反動をつけ、月まで飛んで行こうとしました。
 もちろん、うまく行きません。
 猿はがっかりしてしまいました。
 けれどなにやら池が光っています。
 よく見ると、そこに月が映っていました。
 猿は喜んで月――正しく言うなら水面に向かって飛び込みました。
 水しぶきが上がって、猿は池の底深くに沈みます。
 猿は泳げませんでした。二十五メートルのプールの片道だって無理です。
 要するにかなづちでした。
 すっかり慌てて体を動かしますが、かえってひどくなるばかりです。息が苦しくなって、猿は自分がどこにいるのかも分からなくなりました。
 もっとも、そこが月でない事くらいは猿にも分かりました。
 どれくらいたったのか、猿はふと目を覚ましました。
 周りでは仲間のみんなが心配そうに覗き込んでいます。
「月なんかより、ここのほうがよっぽど良い」
 猿はそう思って、もう夜空を見上げることもなくなったそうです。

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