[ウェヌシスとコトニシス]

 昔、北の大地にとても貧しい土地がありました。陽の光は厚い雲を通して弱々しく、地の土は岩のように固く、育つもといえば稗や粟といった貧しいものばかりでした。
 その土地には二人の母子が住んでいました。母親をウェヌシス、息子をコトニシスといいます。二人は貧しいながらも愛情にあふれ、慎ましくとも幸せな日々を送っていました。
 ある年、冬の女神であるエリオンがその杖を大きく振るったために、地上は雪と氷に閉ざされ、鳥は歌をやめ、動物たちは穴倉に姿を消しました。
 ウェヌシスとコトニシスの二人も、家にこもったまま外に出ることができませんでした。決して多くはなかった蓄えも、すぐに食べつくしてしまいます。
 食べ物がなくなった以上は、もはや飢え死にを待つより他に仕方ありません。母親のウェヌシスは、天の主たるフリュケルに向かって祈りました。
「ああ、偉大なる神よ。私たちにはもう食べるもの、寒さを防ぐものさえありません。こうなってはもはや、死を待つより他に望みがありません。もしあなたが私たちを憐れに思し召すなら、どうか私たちを救ってください」
 ウェヌシスの言葉を聞いたフリュケルは二人を憐れに思って、ウェヌシスを花に、コトニシスを蝶へと変えてやりました。
 長い冬が終わると、白い雪の下からウェヌシスの花が真っ先に現われ、コトニシスの蝶がその蜜を吸いに来ます。
 その花はウェラシア、蝶はコトニアと呼ばれています。二つはもともと母子ですから、それで姿が似ていて、コトニアはウェラシアの花にしかやってこないのです。

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