[月の話]

 昔のことです。月がまだ地上にあって、大地には岩ばかりで水がなく、したがって生き物などはいなかった頃のことです。
 月は地上で最も大きな岩で、いつもそのことを自慢していました。例えばあるものが、
「月さん、どうしてそんなに大きいの?」
 と訊くと、
「俺は地上で一番偉いからだ」
 と、月は答えました。またあるものが、
「どうしてそんなにまん丸なの」
 と訊くと、
「どこから見ても美しくみえるようにするためさ」
 と、月は答えました。
 月はいつもそんな調子で自分の自慢ばかりしていたので、次第に彼と話すものはなくなって、いつも独りぼっちになってしまいました。
 寂しくてさびしくて仕方なくなって、月はこんなに寂しいならいっそいつも一人でいられるようにしよう、と思いました。
 ぴょん
 ……ぴょん
 …………ぴょーん
 月は三度目に大きく飛び上がって、大空高く舞い上がりました。そこには月のほか誰もいませんでした。月は満足でした。
 けれど、時間がたつにつれて、月は急に一人ぼっちでいるのが怖くなってきました。いざ助けを求めようと思っても、周りには人っ子一人いないのです。今さら降りようと思っても、あまりに高くに来てしまったので、それもできませんでした。
 月は、地上のものたちを眺めながら、寂しいやら、悲しいやらで、涙があふれてきました。
 涙は月の丸い体を流れ落ちて、地上に降りそそぎました。月はずっと、涙の枯れはてるまで泣き続けたので、地上ではその涙が池になり、湖になり、ついには海になって地上一杯に覆ったのです。
 地上ではその後、月の孤独の涙から大勢の生き物たちが生まれました。
 月に今でも残る黒い跡は、月の涙がいまだに乾かずに、月をぬらしているからなのです。

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