[鳥が歌う理由 〜王〜]

 ある王は、鳥があんまり美しく歌うものだから、それを捕まえておくことにした。王が命令すると鳥はすぐに捕まってしまった。何しろ王の命令は絶対で、世界中の誰にも逆らうことはできなかったのだ。
 鳥は虎か何かでも入れておくような大きな檻に入れられ、王の前へと運ばれてきた。そこには赤いビロードの絨毯が敷かれ、王はトネリコの玉座に座っていた。
 檻が王の前へ置かれると、それを運んできた兵士達はすぐさまどこかへ行ってしまった。あとには王と、人形のように身動きしない重臣達が残されるばかりだった。
「そなたが鳥か」
 と王は訊いた。
 鳥は何だか長い眠りから覚めたばかりのような、うまく現実とかみ合っていないような目で王のほうを見た。あるいは本当に寝不足だったのかもしれない。
「とても美しい歌をうたうそうだな」
 と王は訊いた。
 鳥は段々と現実に体をあわせているようだった。目に光がともって、手足の先まで神経が通いはじめていた。
「僕の歌をお望みですか、王様?」
 と鳥は訊いた。
 もちろんだ、と王は頷いた。
「それでは歌いましょう」
 そう言うと、鳥は喉を震わし、歌いはじめた。その歌を聞くと、誰もが耳を傾けずにはいられなかった。呼吸をするのさえ忘れてしまいそうなほど美しい歌だった。そして重臣達の何人かは、本当に息をするのを忘れて倒れてしまった。
 王はとても満足した。
 けれど王というのはとても貪欲で、おまけにわがままだったから、もっと鳥の歌を聞きたいといった。
 それで鳥はいくつか続けて歌った。鳥が歌うたびに、倒れる重臣の数は増えていった。
 王は満足して、その度に新しい歌を要求した。そこにはまるで終わりというものがなかった。いつまでも降ってくる雪を海に溶かしているようだった。
 鳥はいつまでもいつまでも歌い続けなくてはならなかった。王が眠っている時も、王が食事をしている時も、王が会議をしている時も。
 でもそれはとても間違ったことだった。それは氷を抱きしめながら、そこに温かさを求めるような行為だった。
 鳥は歌い続けた。止めればすぐにでも殺してしまうと言われていた。鳥はいつまでも歌い続けることができた。でもそれは間違ったことだった。
 ある時、召使の少女がそっと鳥の入った檻を開けてくれた。王がほんの少し席を外した間に、鍵を外してくれたのだ。鳥は礼を言って、飛び立っていった。
 それで鳥は今では少ししか歌わず、人間を避けるようになったのだ。とても傲慢な、一人の王のために。

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