[大きな木]

 ある所に、とても大きな木がありました。幹は小さな村を一周するくらいあって、頂上なんて遥かかなたの空にだって届くほどです。
 そんな大きな木でしたから、立っているのには大変たくさんのものを必要としました。木は一日に、三百人もの人間の血と肉を必要としました。そうしなければ、木はすぐに枯れて倒れてしまうのです。
 人々は毎日毎日、何とか三百人の人間をみつくろって、木のそばで殺しました。それは罪人であったり、病人であったり、貧乏人であったり、奴隷であったりして、要するに死んだって構わないような人々でした。
 でも三百人も人を殺すというのは、大変な作業です。処刑用の斧だって何本も要りますし、処刑する人間も大勢要ります。処刑する人間の中には、あんまりたくさんの人を殺しすぎて頭がおかしくなるものもいました。そしてそんな人はすぐさま処刑される側に回ります。
 はっきり言ってそれは、とても問題のある状態でした。
「こんなこと、やめてしまえばどうだろう?」
 と、ある日、一人の人が言いました。
 するとみんなははっとして、すぐに人を殺すことなんてやめてしまいました。正直、誰もがこんなことにはうんざりしていましたし、大きな木がどうなろうと、それはたいした問題ではなかったのです。
 三百人分の血と肉を得られなくなった木は、みるみるうちに枯れていきました。葉は散って、枝が折れ、太い幹にはひびが入ります。
 人々はそれを見て、せいせいしていました。
 いよいよ木が完全に枯れてしまうと、それは腐った部分から自らの重みによって傾きはじめ、轟音を立て、地を揺さぶりながら倒れました。
 と同時に、空が上から落ちてきて、歓声を上げていた人々をすべて押しつぶしてしまいました。地上の人間はレモンを押しつぶすようにして、すべて死んでしまったのです。
 大きな木は、三百人分の血と肉を吸って、大空を支えていたのでした。
 巨大なものというのは、出来上がってしまうと多くのものを犠牲にしますが、なくなってしまうと、もっと多くのものを犠牲にしてしまうのです。

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