むかし昔、ある国のお姫様が明日をも知れぬ病気にかかりました。王様は八方手を尽くして医者を探しましたが、どの医者も病気を治すことはできません。そこで国中にお触れを出して、お姫様を治すことのできるものを探すことにしました。 森に三人兄弟の狩人がいて、王様のお触れを聞くとさっそくお姫様を治す方法を探しに行くことにしました。うまくすれば大変な褒美をいただけると思ったからです。 「まずはおれから行く」 というので、はじめは一番上の兄が出かけることになりました。 しばらく行くと、小人が木になった実をとれずに困っています。「そこの人、あの実を取ってくれないかい」と小人は頼みますが、長男は見向きもせずに、「あんな高い木にのぼって枝でも折れたらどうするんだ」といってすたすた行ってしまいます。 それから森にさしかかりましたが、これは魔法の森で旅人を迷わすように魔法がかけられていました。それで長男は森から出ることができなくなってしまったのです。 いつまでたっても長男が戻ってこないので、今度は二番目の兄が出かけることになりました。これも先の長男と同じように小人に出会いましたが、「あんな高い木にのぼるのは疲れてかなわん」といってすたすたと行ってしまいました。すると魔法の森にやってきて、やはり長男と同じように道に迷ってしまいました。 二人がいつまでたっても帰ってこないので、とうとう三番目の末っ子が出かけることになりました。けれどこの末っ子は上の二人の兄とは違って、しんからお姫様を助けてあげたいと思っていたのです。 しばらく行くと、やはり先の二人と同じように小人が困っているのに会いました。 「よしよし、おいらが取ってきてやろう」 といって、末っ子は木にのぼって実を一つ落としてやりました。小人は大変に喜んで、 「お前さんは前の二人とは違って親切にしてくれたから、よいものをやろう。一つは杖、一つは団扇、一つは笛だ。杖は倒せばいつでも自分の目指すほうに倒れ、団扇は軽くあおいだだけでも強い風を起こし、笛は普段は聞くことのできない風の言葉を聞くことができる」 と言ってその三つの品を渡してくれました。それからまた、お前の上の二人の兄はとても悪い心を持っているから、けして油断してはいけないよ、と忠告しました。 末っ子は小人に礼を言うと、さっそく杖を使ってお姫様を治す方法を探しに行くことにしました。やがて先の二人と同じように魔法の森へとやってきましたが、行く先を告げる杖があったので末っ子は迷うことなく森を抜けることができました。 そうして杖に導かれるまま山を越え、川を渡り、海を行き、また太陽や月や星のそばを通り過ぎてなおも行くと、立派な宮殿が建っているのを見かけました。 中に入ってみると、黄金の床に光を編んだじゅうたんが敷かれ、銀のろうそくに火がともされています。なおも進んでいくと、王様が玉座に座っていてなにやら困っている様子でした。 「こまったぞ、こまったぞ。もうすぐ夏がやってくるというので地の底の火を焚いてこの世をば暑く熱せなければならないが、どうしたものか火の勢いは弱いまま。こまったぞ、こまったぞ」 「そんならおいらが何とかできるかもしれない」 というので、末っ子はこの世を暑くするために火が焚かれているところにやってきました。見ると山のように大きな黄金の釜が置いてあって、その下で火が赤々と燃えています。 「こりゃ火の食い物が足りないんだ」 末っ子はさっそく小人にもらった団扇で一あおぎ二あおぎしてみました。すると嵐のような突風が起こって竈の中に入り、火は狂ったようにごうごうと燃えはじめました。 季節の王様は大喜びで、お礼にりんごを一つ渡してくれました。 「これは魔法のりんごで、一口かじればどんな病でもたちどころに治してしまうのだよ」 末っ子はりんごを受け取ると、喜び勇んで帰り道につきました。けれど途中、森で迷ったままの兄たちのことを思い出して助けに行くことにしました。 もう少しで飢え死にするところを助け出された二人は、弟に一体どうやってうまいことやったのか尋ねました。 末っ子がそのわけをすっかり話してしまうと、この二人は考えたものです。 「このままだとこいつ一人がうまい汁を吸うことになる。なんとかうまいことやってあの魔法のりんごを横取りできないものか」 三人がしばらく行くと井戸がありました。末っ子はのどが渇いていたので水を飲みたいと言います。 「よしよし、それじゃあ落とすと大変だから魔法のりんごをこっちに渡していくといい。お前は安心していくらでも水を飲みな」 と二人はいって、末っ子が井戸の水を汲もうとするところを後ろから蹴とばして、井戸の中に突き落としてしまいました。 末っ子はまっさかさまに井戸の中へと落ちてしまいましたが、それは涸れ井戸で、中にはたくさんの落ち葉がつまっていましたから、けが一つせずにすみました。 「ひどいことをする」 と思いましたが、りんごはとられてしまったままです。末っ子は途方に暮れましたが、よく見ると井戸の壁に大きな穴が開いていました。「こいつを抜ければうまいこと外に出られるかもしれないな」と思って、さっそく穴に入ってみることにしました。 それは地中をはう大ミミズがあけた穴で、中は複雑な迷路になっています。けれど小人からもらった杖を使って、迷うことなく無事に地上へと出ることができました。 その頃、魔法のりんごをだまし取った二人は王様のところへ行って褒美をいただこうとしていました。そこにちょうど大ミミズの穴を抜けた末っ子がやってきました。 末っ子は本当のことを証明するために団扇を使って世界中の風を集め、笛を吹いてその風たちに本当のことをしゃべらせました。 すると遅れてやってきた北風がなにもかも知っていて、真実をしゃべってしまったのでたちまち二人は首を切られ、末っ子は病気のすっかり治ったお姫様をお嫁さんにいただきました。 末っ子は王様になりましたが、死んでいなければ今も生きているはずです。
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