[孤独な王様]

「今日は何のお話?」
 と、ミスキィは訊いた。
「昔、誰よりも特別であろうとして、そして誰よりも孤独な人がいたの」
「一人ぼっちだったの?」
 母親はちょっと考えて、それから言った。
「ええ、そうね。その人は誰もいない国の、その王であるような人だったの。これはとても寂しくて、一人でしかいられず、一人でもいられなかった人のお話」

 その人が生まれたのは、リドルノという古い城下町だった。彼は貧しくもなく、裕福でもない家の一人っ子として生まれた。
 彼は夢見がちな少年だった。森を駆け回ったり、子供達の遊びに混じったりしながら、心はいつもここではないどこかにつながっていたのだ。それはどこにも存在しない、彼だけの世界だった。
 成長するにつれて、彼は一人でいることが多くなった。この世界のどこにも、彼の求めるものはなかった。部屋の片隅で、彼は一人空を眺めている。
 彼は、何かを求めていた。
 それは、誰よりも素晴らしく、誰もが賞賛し、それだけで満足できる「何か」だった。彼は「完全」を求めていた。
 ある夜、彼が家で机に座っていると、暗がりから声がした。
「君の求めているものを、私は与えることが出来るよ」
 と声は言った。
「本当に?」
「ああ、ただし君はそれを手で触れられるくらいはっきりと想像しなくちゃならない。その身に傷一つ、いい加減な場所一つあってはいけない。それが出来たら、私は君にそれを与えることが出来る」
 彼はその言葉を信じて、必死に自分の求めるものを想像した。彼は何日もその作業ばかりを続け、何も食べず、何も飲まなかった。頬がこけて、目はくぼみ、彼は病人のような姿になった。
 けれど、彼は求めるものを想像することが出来なかった。
 「完全」を想像することは、誰にも出来ないのだ。「完全」は、それだけで存在するものではない。完全な「完全」は存在しない。
 彼はそれに気づき、そして絶望した。自分の求めるものは、この世界のどこにも存在してはいない。
 そして彼は唯一の「完全」を想像した。

「その人はどうなったの?」
 とミスキィは訊いた。
「この世界からいなくなってしまったのよ。その人の求めるものは、どこにも存在していなかったから」
「可哀そうな人」
「そうね。誰にも彼を救うことは出来なかった。神様にも、自分自身にも」
 母親はミスキィを近づけて、その額に口づけをした。

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