レーネフェルトが旅をしていると、一本の老木の上で釣りをしている、五人の人間がいました。老木は湖の真ん中の小島に立っていて、そこまでは岸から細い道がのびています。 物珍しさから、レーネフェルトは近くにまで行ってみました。 老木はどういう種類の木ともつきませんでしたが、葉は枯れ、裸の枝に座った五人は、思い思いの方向に釣り糸をたれています。 その五人というのは、まるで似ても似つかない人たちでした。 一番上にいる一人は、神様のように神々しい美しい若い男で、釣り糸はいつまでたってもぴくりともしません。 二番目に上にいる一人は、体格のがっしりしたたくましい男で、これはほんの時々にだけ釣り糸が揺れ、その度に竿を引き上げますが、針には何もかかっていません。 三番目に上にいる一人は、やせ細った骸骨のような男で、これも時々ですが、二番目のよりは頻繁に竿を引き上げています。けれど、その針には二番目と同様に何もかかってはいませんでした。 四番目に上にいる一人は、元気の良さそうな少年でした。赤く丸い頬をした男の子は、三番目のよりなおしきりと竿を引き上げていますが、その針にはやはり何もかかってはいません。 五番目の、一番下の枝に腰掛けているのはごく普通の、何の特徴もない男で、これはほとんどひっきりなしに竿を引き上げていました。が、これも針には何もかかってはいません。 レーネフェルトはまず、一番下の男から質問をしていきました。 「あなたは何を釣っているんですか?」 すると、平凡な男は竿を吊り上げる動作をしたまま、 「時間≠ウ」 と答えました。 レーネフェルトはなるほどと思いました。確かに時間はひっきりなしに流れていますから、絶えず釣り上げていなければなりません。 次に、レーネフェルトは下から二番目の少年に質問をしました。 「君は何を釣っているんだい?」 すると、健康そうな少年は竿を引き上げて、 「生命≠ウ」 と答えました。 レーネフェルトはなるほどと思いました。確かにこの世界のどこかでは生命が新しく誕生しているでしょうから、少年がしきりに竿を引き上げるはずです。 その次に、レーネフェルトは下から三番目の男に質問しました。 「あなたは何を釣っているんですか?」 すると、枯れ木のように細い男は糸をたらしたまま、 「死≠ウ」 と答えました。 レーネフェルトはなるほどと思いました。確かに死は誕生より少なくなるでしょう。そうでなければ、生き物はみな死に絶えてしまいます。 また次に、レーネフェルトは下から四番目の男に質問しました。 「あなたは何を釣っているんですか?」 すると、たくましい男は竿をがっしり握ったまま、 「災害≠ウ」 と答えました。 レーネフェルトはなるほどと思いました。確かに災害というのはあまり起きるものではありませんし、いざ釣り上げるには力が要るのでしょう。 最後に、レーネフェルトは一番上の枝に腰を下ろしている男に質問しました。 この男は、まるで竿を動かす気配すらありません。 「あなたは何を釣っているんですか?」 すると、世にも美しい青年は、微動だにしないまま、 「この世の終焉≠ウ」 と答えました。 レーネフェルトはぞっとしました。
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