その詩人は語りました。 「憐れな子、黒い天使に祝福された呪われた子。お前はこの世に生まれた人間が受けるべき神の祝福もなければ、愛すべき人の喜びの挨拶を受けることもなかった。憐れな、なんと憐れな運命を負ってお前は生まれてきたのか。いっそ人が生まれる前、甘い香りと美しい花に囲まれているという、あの穏やかな世界で永遠に安らかに眠っていれば良かったものを。 お前が生まれた日、お前が最も愛し、愛されるべき人はその命をお前に与えて、去った。生まれながらに物言わぬお前の代わりに、激しい嵐が産声を叫び、ごうごうたる雨が大地に涙を流した。 一夜明けたその日、喜びに包まれるべき家は黒い喪に服し、歓喜の代わりに嘆きの言葉があふれた。お前は何も分からぬその罪なき瞳で人々の暗鬱を見、悲しみの声を聞いたのだ。 呪われし運命の子よ、お前は何も知らず、また知らされることなく成長していった。しかし、お前の心は一度も会うことなくいなくなった、心のゆりかごと共に土の中へと葬られてしまっていた。その瞳が何を映し、その耳がどんな音を聞き、その小さく人間の神秘がすべて詰め込まれた頭が一体どんなことを思っていたのか、それを分かる者は一人もいない。 お前にとってこの世はあまりに広すぎたのだ。あまりに精巧な鍵を作ってしまったため、自分自身がそこから出られなくなってしまった、あの憐れな神話の神のごとく、お前はお前だけの世界をつくり、そこに誰も入ることはできなくなってしまった そんなお前を唯一理解し、保護してくれたたった一人の肉親はお前の知らぬ地で帰らぬ人となった。 お前がその知らせを理解することはない。なんと憐れなことか。お前はその人がもはやこの地上に存在せぬことを、魂をあの神なる国に運ばれてしまったことを理解することはないのだ。まるで透明なガラスの一片を湖で永遠に探し続けるように。 そうしてお前は彼の地を離れ、遊歴の旅路に着いた。おまえ自身の意思によらざる黒い僧衣を着、ただ人々の天国への手助けたるべく憐れみの対象として仕向けられたのだ。 お前は行く先々で、人々がその罪を償い神の国へと近づくために施しをうけ、生きるべくして生きつづけた。それはおまえ自身の意思ではなく、お前の肉体の意思によってだった。 永遠に開かぬ扉の内側、そこでお前の精神はただ時間という霧を吸って生きつづけていた。 やがて運命の刻は訪れる。 堅固な石造りの塔の中で、お前は次第に朽ち果てていく。だがその瞬間、永遠に開くことのないその扉、しかしそのわずかな隙間である微小な鍵穴から小さな目がのぞき込んだ。 それは塔守の連れてきた、小さな生きた花だった。彼女はまだ成熟しきらぬその小さな頭で憐れなお前の魂を読み取り、語りかけた。 お前はそうして初めて人というものを知り、また己が人である事を知った。その最期の刻にして、お前はようやく透明なガラスの欠片を見つけ出したのだ。 呪われた子、憐れな子よ。 汝の魂が決して暗い永遠の闇の中でさまよい続けることのないよう、私は祈る。神なる国で今一度の祝福をうけ、そして精巧なる扉が音を立てて開くことを。 私は聞くのだ、その音を。 この世で最も純粋たる解放≠フ音を……!」
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