「灰羽連盟」 について


 灰羽連盟は2002年にテレビ放映された深夜アニメである。僕が見たのは2003年の関西テレビのほうだけど、まあ細かいことはこちら(Wiki)で確認を。ついでに公式HPはこちら
 個人的にいうと、必ずしも面白い<Aニメではない。
 といって、悪いアニメではない。落ち着いた感じだし、詩的で童話的なところがある。見方によっては心に滴のようなものを落とすかもしれない。それこそ心にあるコップに、小さな滴が落ちる≠謔、に。
 とはいえ、こんな僕の評価そのものに意味はない。僕にとってこのアニメは、どうしてもうまく入っていけなかった、そういうアニメだ。それだけの話だ。
 もう一度いうと、僕にとってこのアニメは必ずしも面白い≠烽フではなかった。
 だけど、いろいろ気になることがあるんで自分の情報整理のために、ちょっと考えてみよう、というのがこの文章の趣旨である。
 もう一つ個人的なことをいうと、これを見てたとき僕自身の状態がちょっと特殊なものだったので、一度書いておく必要性みたいのをけっこう長いこと感じていた。

 検索かけるといろいろ考察とか出てくるけど、それらは全然調べていない。まあそんなに違った考えが出てくるとも思えないし……たぶんそこが、面白い<Aニメと感じられない理由だとも思うんだけど……。
 まあそれはともかく、作品自体から読み取れること、をここでは考えていく。テクスト論的に――というかまあ、テクスト論自体よく分かってはないけれど。
 もう一度いうと、これは個人的な書きものに近い。灰羽連盟を見たときに感じて、今もやっぱりそう感じる僕の解釈≠書くだけの文章である。
 あと、話の性質上ネタバレなどを含むので、一応注意しておく。……たいして問題になるとも思えないけど。

 まずはじめに、灰羽連盟とは何か?
 もちろんアニメなのだけど、ジャンル的にどうなるのかはよく分からない。というか、アニメのジャンルなんてあってなきが如しだとも思うんで。
 無理にいうなら、ファンタジー系だけど、魔法も戦闘シーンも出てこない。かといってほのぼのしてるわけでもない。内容はいたってまじめで、重いといえば重い。
 物語系? というわけでもないし、日常系とも違う。日常物語系?
 まあさっさと説明してしまうと、話の舞台はどこにあるのかよく分からない街(=グリ)≠ナ、主人公は灰羽と呼ばれる背中に羽の生えた少女たち=B
 灰羽にはいくつか守るべきしきたり≠ェあって、灰羽の生活には普通の人とは違う特徴≠ェある。
 街には普通の人間も暮らしていて、灰羽はまあ、ちょっと珍しい存在、くらいの扱いを受けている。灰羽も普通に働いたり、生活したりしていて、日常レベルでは特別な差異はない。
 街はヨーロッパっぽい作りだが、まあ現代風。正直いえば、そのへんに関する設定そのものが、あまり存在しないのだと思う。少なくとも、作中からはその判断がつかない。
 話としては、その街で誕生した新しい灰羽(=ラッカ)の目線で、街の説明やら灰羽の日常やらが語られていく。
 物語的には、
 → ラッカの誕生と新しい生活
 → クウ(=仲間の灰羽の一人)の旅立ち
 → ラッカの罪憑き(つみつき)の病とそこからの再生
 → レキ(=もう一人の罪憑きの灰羽)の救済
 という感じで進んでいくのだと思う。
 新しい生活と少女の成長、日常の再生、とかなんとか。
 ……ああ、もうめんどくさいのでアニメを見てください。まあ見なくてもこの文章読むのに差し支えはないと思うけど。
 アニメの雰囲気やら絵柄やらは置いとくとして、いくつか問題部分を書いていくことにする(実のところこのアニメを見たのは、その前に見てた『NieA_7』が面白くて、その絵を描いてた安倍吉俊がこの絵も描いてたからだった。ちなみに今回は原作・脚本とかもやってる。でも個人的には、この人はコメディのほうが向いてると思うんだけど……)。
 灰羽≠竍街≠フ設定のとおり、この世界は普通の世界とは違う特徴を持っている。ただし、その特徴は生活レベル(ソフトウェア)ではなくて、生活基盤(ハードウェア)としての特徴である。
 実際のとこ、灰羽は見た目(光輪と背中に灰色の羽が生えていること)以上には普通の人間と違いはない。つまり、不死身とか、光がないと生きていけないとか、24時間で記憶がリセットされるとか、そういうのはない。
 その上で、いくつかの特徴は保有している。
 まず、灰羽は繭から生まれてくる。生まれてくる年齢はまちまち。主人公は、高校一年くらい、かな……。
 繭から生まれてしばらくすると、皮ふを裂いて羽が生えてくる。痛そうである。
 灰羽は以前の記憶≠失くしている。この設定は、灰羽になる前の存在から移行してきたことを示すが、作中では分からない≠ニいう以上のことは言わない。
 ただし、街の人たちも街の外≠フことは知らないという設定なので、あまり特徴という感じでもない。このへんが、どうも灰羽≠ニいう設定があまり意味がないなーと(個人的に)思うところだったりする
 灰羽は自分の名前も忘れているので、繭の中で見た夢にちなんで名前がつけられる。主人公のラッカは、落っこちる夢=落下から来ている。ついでに先に言っておくと、灰羽には同じ音を持つ隠された名前≠ェあって、ラッカの場合落下≠ニ絡果(=落果=殻に守られたもの、地に落ち育つもの)≠ニいうような意味がある、らしい。
 灰羽はお金を使ってはならず、灰羽連盟≠ゥら支給される灰羽手帳≠使って物を買う。その際、新品を買うのはだめで、必ず使い古しのものでないといけない。
 灰羽連盟というのは、灰羽の生活を助けるための組織で、そうはいっても作中では話師という一人くらいしか出てこない。一応この人は街外れの寺院に住んでいて、物語の進行上いろいろ重要な役割も果たす。
 で、灰羽の設定で一番重要なのは巣立ちの日≠ナある。
 灰羽はある日、街を出て行く(街を出て行けるのは灰羽だけ)。街を出た灰羽は二度と戻ってこない。そして罪憑き≠ニは、羽が黒くなって巣立ちを迎えられない灰羽のことをいう。罪憑きはやがて人でも灰羽でもないものとして、孤独な生活を強いられる。
 街≠ヘ壁≠ノ囲まれている。
 壁の外がどんな場所かは不明。街の人間は外へは出られない。一応、トーガ≠ニいう交易者が街の外からやってくるが、どういう存在かは不明。壁を越えていった灰羽たち、というのが一番まともだけど、そんな感じでもない。
 また、灰羽は壁≠ノ近づいてはならない。近づくとよくないことが起こる。ただし、じゃあ一般人はどうなのかというと、よく分からない。このへんも、設定的に未熟な部分だと思うんだけど……(個人的には)。
 その他にも細かい設定はあるけど、省略する。これでも長くなりすぎてるくらいだし。
 まあ具体的には実際にアニメを見てもらうしかないとして、ここでは問題点を三つに絞って考えていきたいと思う。
 その問題点というのは、「1、街と壁」「2、灰羽とは何か」「3、罪憑きとは何か」の三つである。
 ――ついでにいうと、こうした設定に関しては作中では語られないので、それ以上は推測するしかないが、かといってその行為≠ノあまり意味があるとは僕には思えない。
 それが何故かはよく分からないのだけど、もしかしたらそれは話が話の中で完結している≠ケいかもしれない。
 それは、その話以上のもの≠含まない。
 つまりなんというか、解釈したところでそれ以上先には進まない、というか、何も出てこないというか……。
 まあそれは僕が話の外≠ニ話≠結び付けるべきものを持っていないせいかもしれないけれど。
 しかし正直にいえば、これらは明らかな謎≠ニして提起されつつ、謎として必要な情報・表現≠欠いているように思う。その情報・表現≠ェどんなものかは分からない。僕に分かるのは、ただそれが欠けている≠謔、に感じるということだけである。
 最初にもいったように、僕はこの作品をあまり面白い<Aニメとは思っていない。
 僕としては、それが何故なのか? ということのほうが、実のところ問題になっている気がする。
 まあそれはともかく、問題点について考えていきたいと思う。


1、街と壁

 街はヨーロッパ風だけど、これは異世界風という以上の意味はもっていない(少なくとも、作中からはそれ以上読み取れない。過ぎ越しの祭り≠燗ッじ)。前にも言ったように壁に囲まれていて、住人は外に出られず、外に何があるかも知らない。
 作中では、本当にそれ以上のことは分からない。実は大昔に戦争があって、この街はその呪術的な残滓を防ぐために壁で守られている、とか、実はここはもともと刑務所で、壁は住人を閉じ込め脱走を防ぐためにあった、とか、なにも分からない。
 Wikiによれば、この設定は村上春樹の影響があるらしい。そういわれるとまあ確かにそうだなぁ、と思うけど(井戸とか)、かといってだからどうしたという感じでもない。作品に村上春樹的な何かがあるような気もしないし、メタ的な部分もない。
 まあ村上春樹的な作品を作りたかったとは思えないけど……。
 いずれにせよ、この設定(所在の知れない街、越えられない壁、誰も知らない外の世界)の一番の問題は、それらがそれにふさわしい意味≠持っていないことだと思う。
 つまり、その特異な設定にもかかわらず、街の人はあまりに普通≠ノ暮らしすぎている、ということだ。
 街の人は外の世界をある程度気にしているらしいが、同時にほぼ何の屈託もなくそれを明らかにすることを諦めている。というか、灰羽の話≠ノするために、そうした設定上、当然出てくる疑問≠棚上げにしている。
 ……なんか、段々ひどいことを言ってる気がしてきた。
 13話という話数だし、あんまりその辺のことに触れる余裕はなかったんだろうけど、正直いって街の設定は少々手抜きの感がある。
 手抜きといって悪ければ、それはこの話にふさわしい設定ではなかった、というべきかもしれない。
 灰羽と罪憑きの話から、僕はこの街を死後の世界≠ニしてイメージした。
 ただ、この解釈は正直なりたたない。街の人々は普通に子どもを育て、老いていく(街で死んだ後どうするかは不明。墓とかあるのかな?)。死後の世界という設定なら、年をとらないとか何とか、そういう設定が出てきたと思う。
 まあ、アステカだかマヤだかの神話では、世界はいくつかの階層に分かれていて、死んだ後はそれぞれの階層で生活をしているらしいから、死後の世界≠ニいう設定も無理ではないのかもしれない。
 しかしまあ、街と壁を解釈する手段は、作中ではほぼ与えられていない。あるのかもしれないけど、僕には分からない。あるいは、そんなことはどうでもよかったのかもしれない。
 けれど、話の性質やテーマから考えて、この街の設定はそれにふさわしいものではなかったと思う。
 極端なことをいうなら、街は必要なかったと思う。オールドホーム(灰羽たちの生活しているところ)だけで、他には何もない、という設定でもよかったんじゃないかと。
 そうでなければ、やはりもっと細かく街の設定を作るべきだったと思う。
 もちろん、そんなことは気にならない、この話ではそんなことは気にすべきでない、という見方もあるのだろうけれど……。
 しかし、街≠ニ壁≠ニいう設定を作った以上、そこから出てくるいろいろな疑問について答えるか、あるいは――答える気はない≠ニいうことを示すべきだったと思う。

2、灰羽とは何か

 特異な街でも、さらに特異な存在として位置づけられている。
 大体はいったとおりだけど、この作中の印象では、視聴者は灰羽側の立場として作品を見ていくことになる(主人公がそうなんだから、当たり前といえば当たり前だけど)。
 そういう意味でも街は異質なもの≠ニしての設定なんだけど、その異質性を示すものは特になかった。街はあくまでごく普通の世界、として示されている。
 灰羽の特殊性を示すのが街の設定の意味だからそれは当然だ、ということになるのかもしれないけど、灰羽の特殊性を反映する街の特殊性がなかった、というか……。
 分かりづらいけど、つまり灰羽の設定をいかす設定が、街にもやはり必要だった、と思うのだ。
 僕の印象では、物語≠つくるとき、人はわりと安定≠求めたがるところがある。あんまり突飛な設定を作ると、手に終えなくなるような気がして恐くなるのだ。
 でも正直言えば、そんな安定的な普通≠フ話は、大抵の場合面白くはならない。普通じゃない話をつくれば面白いかというとそうではないけど、それでも普通≠フ話は、作者のエゴと同義なのだと思う。
 かなり話がそれた。
 灰羽とは何か、というと、正直よく分からない。
 死後の世界≠フイメージから、なにか特殊な死に方をした存在、と解釈してみたけど、あまりしっくりとはこない。
 作中では灰羽=異物=作品にとっての視聴者自身、として、その存在を許す物語=視聴者に対するある種の許しを与えること、というふうな意味合いを持つ、のかとも思うけど、かなり無理がある。自分でもなに言ってるのかよく分からない。
 灰羽連盟はもともと安倍吉俊の同人誌から作られたらしいし、そんなに明確なイメージはなかったんだと思う。
 つまり、天使じゃないけど人間でもない、灰色の飛べない羽、光輪、というのは、何となく≠フイメージだったんだと思う。それ以上のものではなく。
 そこからイメージをゆるく広げて、灰羽たち、オールドホームという設定が生まれた。
 だから解釈不能とまではいわないにしろ、あまり厳密な設定を求められないものとして存在している。
 ある意味、そういう絵を描くために付属した設定、が灰羽ではないかと思う。――それ以上の意味はないのかもしれない。

3、罪憑きとは何か

 これははっきりしている……と思う。
 ――自殺者。
 それ以外の解釈は、あまりなりたたない。解釈するとすれば、だけど。
 これはラッカとレキのセリフから、かなり自然に思いつく。まあかといってそうだとは言い切れないけど。
 この設定、罪憑き=自殺者が、灰羽=不慮の事故死を遂げたもの、という連想を生んで、街=死後の世界、という解釈をもたらすんだけど、1、2、で言ったとおり、あんまりそんなふうには解釈できない。
 一応、罪憑き=自殺についていっておくと、まず二人のかなり自己否定的な言明から出てくる。「必要とされない」とか「いなくなっても同じ」とか、雑な言い方をすると、かなり典型的な表現≠ェある。
 それに「落下」と「轢」のことがある。
 これをそのまま受けとると、ラッカは飛び降り自殺、レキは轢死が考えられる。レキの場合、最終話で列車が出てきたのは、そのせいだと思う。
 この部分が物語のクライマックスを形成する。物語全体の意味も。
 つまり、これは罪と救済≠フ話なのだ。
 ――余談だけど、普通にアニメを見ていたとき僕はこれを住み着き≠セと思っていた。巣立ち≠ニ対応させて、街を出て行けない未熟な存在、とそう思ったのだけど、それほど違和感はなかった(たぶん個人的な理由による)。
 しかし街や灰羽の設定に比べて、これはいかにも簡単に解釈できて、しかも他の設定と相互補完関係にあるとはいいがたい。
 ついでにいうと、何故レキのほうは最初から罪憑きで、ラッカは途中から罪憑きになったのかとか、ちょっと分からないところもある。
 言わんとすることは分かるんだけど――
 やはりこの設定は、ちょっと雑だったという気はする。
 こういうふうに感じてくださいね≠ニいうのは、やはり作者のエゴだと思うのだ。


 さて、かなりひどいことをいってきた気がする。
 しかし要するに、僕にとってこれはかなり不満の残るもので、けれどなんだか気になって仕方がない、というものである。
 何で気になるのかはよく分からない。性質的に似ているのかもしれない。
 たぶん僕も、こういうのを書きたがっているのだと思う。というか、まあ似たようなものを書いてる。だから、素直に見れないし、正確な評価もできないのだと思う。
 いずれにせよ、僕にとってこの話には何か≠ェ足りなかった。
 それは簡単にいうなら、「なんだそりゃ?」と思わせること。思わず先を見たくなるような気持ちにさせること、だと思う。
 そういう類の話じゃない、もっと静かに見るものだ、というのなら、それは関係のないことだと思う。笑える話だろうが泣ける話だろうが、そこには物理的といえるほどに見させる≠アとが必要だと思う。それがいい作品の条件だと。
 そういう意味では、この作品に欠けていたのは読み手を巻き込むこと≠セったと思う。作品の関係性の中に、作品と視聴者の関係性≠織り込むことが必要だったと思う。

 それで面白くなったかどうかは分からないけれど。

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