自律神経には「アクセル」と「ブレーキ」がある
よく知られるように、自律神経には
「交感神経」 と 「副交感神経」
とのふたつがあります。
交感神経は、心と体を「がんばるモード」にシフトする神経です。これを「戦闘モード」と言い換えてもいいかもしれません。
この神経は、仕事で緊張したときや身の危険を感じたとき、
スポーツや人間関係で何かを争っているときなど、
“ここぞ”というときに優位になります。
そういった場面でより力を生み出せるよう、心拍数や血圧を上げ、呼吸を速くし、血管を収縮させて、心と体を焚きつけるように働くのです。
これによって胃腸の動きは鈍くなります。
言うなれば交感神経は、よりがんばるための「心身のアクセル」のような役割を果たしているわけです。
一方の副交感神経は、心と体を「リラックスモード」にシフトする神経です。
こちらの神経は、
安心してくつろいでいるときや寝ているとき、
気持ちが癒されているときなどに優位になります。
よりゆっくりと休めるように、心拍数や血圧を下げ、ゆったりした呼吸にし、血管を拡張させて、心と体を落ち着かせるように働くわけです。
これによって胃腸の動きは活発になります。
副交感神経は、よりリラックスするための「心身のブレーキ」のような役割を果たしているといっていいでしょう。
この「アクセル」と「ブレーキ」は、両方がバランスよく使われていてこそ、うまく機能するものです。
車やオートバイなどもそうですが、スピードを上げたいときは「アクセル」を踏む、スピードを落とすべきときは「ブレーキ」をかけるといった絶妙のコンビネーションが成り立っていて、はじめてうまく運転できるものです。
それと同じように、人間の体も「交感神経というアクセル」と「副交感神経というブレーキ」をバランスよくかけることができないと、自分という“車体”をうまく乗りこなせないようにできているわけです。
しかし、この「アクセル」と「ブレーキ」がうまく機能しなくなったら、いったいどうなるでしょう。
スピードが出すぎたり、ブレーキが利かなくなったりすれば、自分という“車体”が操縦不能になって、あっという間に事故や問題を起こしてしまうのではないでしょうか。
自律神経の失調状態とは、
「交感神経=アクセル」と「副交感神経=ブレーキ」
のバランスがとれなくなってしまった状態のことを指しているのです。
実は、首の筋肉異常をきっかけとして、「アクセル」と「ブレーキ」の配線が混乱を起こし、「胃腸の調子がおかしい」「動悸や息切れがする」「体温がうまく調節できない」「血圧が安定しない」といったさまざまな“故障”が、次から次に“車体”のあちこちに出てきてしまうわけです。
「首こり」が自律神経を乱す
では、首疲労による自律神経失調では、「アクセル」と「ブレーキ」にどのような問題が生じているのでしょうか。
これは、どうやら「ブレーキ」側に問題があるようです。
副交感神経のほうが失調をきたし、その結果、相対的に交感神経のほうが優位な状態が続くことになってしまう。
「副交感神経というブレーキ」の利きが悪くなったために、結果的に「交感神経というアクセル」をずっと踏み続けているような状態になってしまうとみられるのです。
これは人間の心身にとって、たいへん危険な状態です。交感神経は“ここぞ”というときに「戦闘モード」になって力を出すためのシステム。
それが「アクセル」を踏みっぱなしで、常時「戦闘モード」のような状態になっていては、心も体もすぐにエネルギー切れになって燃えつきてしまいます。
休みたくても「ブレーキ」がうまく利かないから休むこともできない。それで、心身が疲弊しきって“燃えカス”がくすぶっているような状態のまま、延々と走らされるようなハメに陥ってしまうわけです。
こんなひどい状態では、心や体の機能が大きく落ち込み、さまざまな“故障”が発生するのも当然でしょう。
自律神経失調症というのは、このように心と体のコントロール機能がアンバランスになってしまう病気なのです。
ちなみに、自律神経失調症は、長らく“治療のしようがない病気”と見なされてきました。
病院を受診しても、たいていは当面のつらさや痛みをごまかす薬を出されるだけ。
その薬が切れればまたつらくなるうえ、神出鬼没というほどあちこちにいろいろな症状が現われるのです。
それで、体のあちらこちらで悲鳴が上がるたびに、薬に頼って症状をごまかす。
そんな“堂々巡り”を繰り返すうちに、すっかり“薬漬け”になってしまう患者さんもたくさんいらっしゃいます。
しかし、その病気が首の筋肉疲労をとることによって“緩快可能”となったわけです。現在のところ、首疲労治療は、自律神経失調症を根治させる可能性のある治療法といっていいでしょう。
あなたの「首」は健康ですか?
不調の原因が「ストレスではない」ということに、まだ半信半疑の方もいるかもしれませんね。
では、きちんとご理解いただくためにも、ぜひ、次のチェックテストを行なってみてください。
これは、患者さんの訴える症状が、首疲労からきているものなのかどうかを見極めるための問診表です。30の項目のうち、自分によく当てはまると思うものにチェックを入れてみてください。
□ 頭が痛い。頭が重い
□ 首が痛い。首が張る
□ 肩がこる
□ 風邪をひきやすい
□ ふらっとする。めまいがある
□ 歩いていたり、立っていたりするとき、なんとなく不安定
□ 吐き気がある
□ 夜、寝つきが悪い。目覚めることが多い
□ 血圧が不安定である
□ 暖かいところ、または寒いところに長くいられない
□ 汗が出やすい
□ 静かにしているのに、心臓がドキドキする
□ 目が見えにくい。像がぼやける
□ 目が疲れやすい。または目が痛い
□ まぶしい。または目を開けていられない
□ つばが出やすい。またはつばが出ない
□ 目が乾燥する。または涙が出すぎる
□ 微熱が出る(37度台。38度台になる場合も含む)
□ 下痢をしやすい。または便秘・腹痛などの胃腸症状がある
□ すぐ横になりたくなる
□ 疲れやすい(全身倦怠)
□ 何もする気が起きない。意欲がない
□ 天気の悪い日か、その前の日に調子が悪い
□ 気分が落ち込む。気が滅入る
□ 集中力が低下して、ひとつのことに集中できない。もの忘れが多い
□ わけもなく不安だ
□ イライラして焦燥感がある
□ 根気がなく、仕事や勉強を続けられない
□ 頭がのぼせる。手足が冷たい。しびれる
□ 胸が痛い。胸部圧迫感がある。胸がしびれる
・4項目以下の人……特に問題なし
・5~10項目の人……軽症
・11~17項目の人……中症
・18項目以上の人……重症
「予備軍」の人も甘く見てはいけない
結果はどうでしたか?
チェックが5個以上ついた人、すなわち、上の診断基準で「軽症」「中症」「重症」の人は要注意です。
おそらく、当てはまった項目がゼロという人はいないのではないでしょうか。以前、調査したところ、この首こり症状のない人は10人に1人だけでした。
たとえば、デスクワーク中心のサラリーマンの方なら、「肩がこる」「目が疲れやすい」「疲れやすい」といった項目にチェックがつかない人はほとんどいないはずです。そのほかにも2つか3つくらいチェックがつけば、もう5個を超えてしまいますね。
そういう方は、「首疲労予備軍」。日常生活に支障を感じるほどの自覚症状はなくとも、首の筋肉に疲れがたまってきている証拠です。
重症の方々も、首の筋肉疲労をとる治療を行なうことによって、「ストレス」に対する治療など行なわなくとも、「首」にスポットを当てた治療によって改善していくのです。
問診表の30項目のラインナップを見ていただければおわかりのことと思いますが、こうした数々の不調を、もし他の病院に訴え出たとしたなら、十中八九、「ストレスのせいかもしれませんねえ」のひと言で片づけられてしまうことでしょう。
もっとレベルの低い医師に当たりでもすれば、「気のせいではないですか?」などと言われることもあるかもしれません。あるいは、心の病気を疑われ、他の病院を紹介されて「はい、サヨナラ」という場合もあることでしょう。
しかし、原因は「ストレス」でも「気のせい」でもないのです。
心に問題があるせいでもないのです。
首の筋肉疲労。
不調から脱出する出口には、この“器質的な問題”を解決しないかぎりたどりつけません。「ストレス」や「心」を相手にしていては、いかに懸命に探し回ったところで、出口は見えてこない。いや、それどころか、いっそう迷路にはまっていってしまうだけなのです。
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